名前の玉手箱

名前と印章の想い出-8 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-8

大阪で生まれた私に、父は故郷をしのび、日本一の滝のように美しい娘にと那智子と名付けてくれました。 大学に旅立つ日、母は自分宛住所と名前を書いた百枚のハガキと、那智子にと彫った一本の印章を渡してくれました。 「時々、このハガキにこのハンコを押して投函してね。母さんはお前が元気だとわかり、安心するから」…
名前と印章の想い出-7 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-7

「どうして私の名前は光枝なの?」 女四人きょうだいの四女の私は、いつも親に聞いていた。 「光市で生まれたからよ」 一番上から、「初枝」「正枝」「静枝」その次に「光枝」。 なんだか、とても手抜きされたような気がしていた。 でも親の気持ちは、きょうだいとしてのつながりを大切にしてもらいたかったようだ。 …
名前と印章の想い出-6 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-6

「無銭飲食だ、通報しろ」と息巻く店員達。 一人で来た高級レストランで免許証等全て入った財布を忘れたのだ。 唯一の郵便局の通帳を提示しても「本人の物かわからない」と、全く犯人扱いだ。 一人暮らしで近くに身内もないが、まさか飛行機に乗ってまで来てもらえない。 もう必死でバッグを引っかき回す。 あっ局の印…
名前と印章の想い出-5 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-5

婚姻届を出した後で恋女房の曰く。 「用がなくなったから、私の印鑑は捨てようかしら」。 そこで思わず、私。 「とっとけよ。離婚届に必要かも知れん」。 爾後、三十余年。 引っ越しで整理をしたら女物の印鑑が出て来た。 「幾ら何でも、もう要らんだろ」。 捨てようとしたら傍らの山の神。 「まだ判らないでしょ・…
名前と印章の想い出-4 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-4

私が6才、姉が9才の時、両親が離婚しました。 私は母に、姉は父に引き取られてその後、 父も母も別の人と再婚して私達姉妹は、 ひきさかれたまま新しい家族ができました。 姉には新しい妹ができ、私には弟ができました。 幼心にも互いの新しい家族の為に、 私達は連絡をとりませんでした。 そして、今、私は24才…
名前と印章の想い出-3 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-3

書店の隅にひっそりとたたずむ三文判のスタンド。 キュルキュルとぎこちなく回る音を聞きながら必死に好きな人の名字を探す。 それを見付けた瞬間の胸の痛みは心地良い。 私の初恋の通過点にはそれがあった。 今でもたまに三文判の売り場を目にすると、 そんなことをしている制服姿の女の子が目に浮かぶ。 「三文判売…
名前と印章の想い出-2 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-2

これは、私が病院で働いていた時のこと。 病院では当然だが患者さんの名前には「様」をつける。 ある時、神(かみ)と奥(おく)という二人が治療に訪れた。 会計の際にマイク大音量で、続け様に二人の名前を呼んだ。 「神様、神様」「奥様、奥様」 少し間をおき薬局でも同様に呼ばれた。 待合室にいる患者がどよめい…
名前と印章の想い出-1 名前の玉手箱

名前と印章の想い出-1

私たちはアメリカ住まいで書類にはサイン。 ハンコとは無縁の生活を送ってきた。 しかし、日本に長期滞在の機会を得るや、 「ここに印鑑を」と求められる事、多々。 その都度、ライスとカタカナ書きの名字を長丸で囲んだが、 ある日ついにハンコ屋さんで新調。 以来「米」が大活躍したのは言うまでもないが、 印章は…